俯瞰したスタジムに選手は6つの大まかなラインで動いていた
システムを守り自分の役割を果たす
その均衡がゲームを作り、観戦者はその出来を見て勝敗を推測する
私もその一人でピッチ内で起きる駆け引きや動きを楽しんでいた
次の瞬間、ピッチの真ん中をただ一直線にドリブルしていく突破者がいた
アウダイールでもルシオでもバレージでもない、猫背の背番号3
推測も均衡も秩序も指示も喧噪もショルダーチャージもGK土肥の両手も全てが彼の前では無力だ
やがてゆっくりボールが落ちてきた、信じたくないがもちろんゴールの中にである
敗戦を決定づける逆転のループシュート、私はしびれて頭を抱える事すら出来なかった
電光掲示に目をやる、背番号3、やはりそうだ、日本人でこんな芸当をやってのけるのは一人しかいない
松田直樹
高校時代松田と同じ名前の友人から凄いDFがいると教えられて以来目の離せない選手になり、時に彼は私の代弁者だった
上司だろうが先輩だろうがサッカーの神様だろうが、自分の信念を曲げないその姿勢は
私がやり続けたくても、勇気と忍耐と心の強さが足りず完遂できずにいたそのものだったからだ
事実、多くの批判と誤解が松田の周りには常にあった
体の強さよりもその闘争心が日本人の規格外だった事に起因していたのではないか
彼のような希有な存在を扱いきれなかったのは、文化として未成熟なサッカーそのものだった
ドイツワールドカップの時に松田が代表にいれば、中田英寿はあんなに孤立しなかっただろう
引退もせず現役でやっていたはず、とは邪推がすぎるだろうか
ただそれも松田の選択した道だった
後悔は無いだろう
心を整えるキャプテンが仕切る今の日本代表には20年も30年も早すぎたのかもしれない
心を整えない、ありのままの情熱をプレーに落とし込む、決して作り物じゃない闘争心
それが松田直樹だった
監督にセレクションされる大多数の選手の中
松田は自分の道をセレクトし信じ進める数少ない選手だった
彼がマリノスに対してするはずだった恩返しをこめた渡邊一真への削りも
私が体験した絶望的に美しいループシュートへのリベンジも
彼が残すであろうすばらしいプレーへの機会も全て永遠に奪われてしまった
早すぎる、そんな言葉がチープ聞こえるほど早すぎる死が
今はただただ残念である
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